コラム

インプラントにも「歯周病」があります。インプラント周囲炎を起こさないために知ってほしいこと(テーマ:インプラント 第5回/全6回)

「インプラントは人工物だから、虫歯にも歯周病にもならない」と思われることがあります。確かにインプラントそのものが虫歯になることはありません。しかし、その周囲にある歯ぐきや顎の骨には炎症が起こります。進行して骨が失われる状態が「インプラント周囲炎」です。しかも初期には自覚症状が少なく、患者さん自身では気づきにくいことがあります。今回は、インプラント周囲炎とはどのような病気なのか、長くインプラントを使うために何を見ておく必要があるのかについてお話しします。

インプラントは虫歯にはなりません。でも「病気にならない」わけではありません

インプラント治療を受けた患者さんから、

「もうこの歯は虫歯にならないんですよね?」

と聞かれることがあります。

これは半分正解です。

チタンでできたインプラント体や人工の被せ物そのものが、天然歯のような虫歯になることはありません。

しかし、だからといって何のトラブルも起こらないわけではありません。

インプラントの周囲には、天然歯と同じように歯ぐきと顎の骨があります。

そして、その組織には炎症が起こることがあります。

「インプラント周囲粘膜炎」と「インプラント周囲炎」

インプラント周囲の歯ぐきに炎症が起き、出血などがみられる状態を「インプラント周囲粘膜炎」といいます。

天然歯でいう歯肉炎に近い段階と考えると分かりやすいでしょう。

さらに炎症が進み、インプラントを支えている骨にまで影響が及んだ状態が「インプラント周囲炎」です。

骨によって支えられていることがインプラントの大きな特徴ですから、その骨が失われていくことは無視できません。

進行すると、最終的にはインプラントを維持することが難しくなる場合もあります。

「人工の歯だから安心」という油断が一番怖い

天然歯であれば、

「虫歯にならないように磨こう」
「歯周病にならないように検診へ行こう」

という意識を持たれている方が多いと思います。

ところがインプラントになると、治療が終わった安心感から、少し油断してしまうことがあります。

むしろインプラントだからこそ、治療後も定期的に状態を確認する必要があります。

インプラント周囲炎は、気づかないうちに進むことがあります

インプラント周囲炎で注意したいのは、初期には患者さん自身が気づきにくいことです。

「痛くないから大丈夫」

とは限りません。

強い痛みが出るとは限りません

虫歯で神経に炎症が起これば、ズキズキと強く痛むことがあります。

一方、インプラント周囲の炎症では、初期から必ず強い痛みが出るわけではありません。

食事も普通にできる。

インプラントも動いていない。

そのため、ご本人は特に問題を感じていないということがあります。

しかし診察してみると、

・歯ぐきから出血する
・ポケットが以前より深くなっている
・膿がみられる
・レントゲンで周囲の骨に変化がある

といったサインが見つかることがあります。

インプラントが動き始めてからでは遅いこともあります

インプラントが「動く」と感じた場合でも、どこが動いているのかによって状態は大きく異なります。

被せ物や固定用のネジだけが緩んでいるのであれば、付け直しなどの処置で対応できることがあります。

一方、顎の骨に埋め込まれているインプラント体そのものが動いている場合は、骨による支えが失われている状態で、インプラントを残すことは難しく、基本的には撤去が必要になります。

だからこそ、動きや痛みといった分かりやすい症状が出る前に、歯ぐきや骨の小さな変化を見つけることが大切です。

これが、インプラント治療後も定期的な検診を続けていただきたい大きな理由の一つです。

インプラント周囲炎には「なりやすくなる条件」があります

では、なぜ同じようにインプラント治療をしても、問題なく経過する方と炎症が起きる方がいるのでしょうか。

原因は一つではありません。

いくつもの条件が重なっていることがあります。

まず重要なのはプラークコントロールです

歯周病と同じように、インプラント周囲の炎症には細菌性のプラークが深く関係します。

つまり、日々の清掃はやはり基本です。

ただし、

「ちゃんと歯磨きをしています」

というだけでは十分ではない場合があります。

インプラントの被せ物の形によっては、歯ブラシだけでは届きにくい場所があります。

歯間ブラシなどを使った方がよいこともありますし、患者さんごとに適した清掃方法は異なります。

大切なのは、実際にきれいにできているかどうかです。

歯周病になった経験がある方は特に注意します

天然歯を歯周病で失った方の場合、その歯をインプラントに置き換えれば歯周病の問題がなくなるわけではありません。

歯周病になった背景には、

・プラークの付き方
・歯周組織の状態
・喫煙などの生活習慣
・糖尿病などの全身状態

といったさまざまな要素が関係している場合があります。

その環境は、インプラントを入れたから突然なくなるものではありません。

ですから、歯周病の既往がある方では特に、お口全体を安定させたうえでインプラント治療を行い、その後も継続的に管理していくことが重要になります。

インプラントや被せ物の「形」も関係します

これは患者さんからは少し見えにくいところです。

インプラントが適切な位置に入っているか。

被せ物の周囲に歯ブラシが届くか。

歯科医院で器具を入れて検査や清掃ができる形になっているか。

こうした治療時の設計も、将来の管理のしやすさに関係します。

第3回で「メインテナンスしやすいインプラントを最初から作ることが大切」とお話ししたのは、このためでもあります。

定期検診では、インプラントのどこを見ているのでしょう

インプラントのメインテナンスというと、

「きれいに掃除してもらう日」

と思われている方もいらっしゃいます。

もちろんクリーニングも行いますが、それだけではありません。

出血やポケットの変化を記録します

インプラントの周囲を専用の器具で確認し、

・出血がないか
・膿がないか
・ポケットの深さに変化がないか
・歯ぐきの位置が変わっていないか

などを確認します。

大切なのは、一回の数字だけではありません。

治療後の状態を基準として、以前と比べてどう変化しているかを見ることです。

必要に応じてレントゲンで骨の状態も確認します

歯ぐきの診察だけでは、骨の変化まですべて確認することはできません。

必要に応じてレントゲン撮影を行い、インプラント周囲の骨の状態を確認します。

数年前の画像と比較することで、

「以前とほぼ変わっていない」
「この部分だけ少し変化している」

ということが分かります。

長期症例では、この「以前と比べる」ことが非常に重要です。

インプラント周囲炎になったら、どうするのでしょうか

ここまで読むと、

「もしインプラント周囲炎になったら、インプラントを抜くしかないのでしょうか」

と不安になるかもしれません。

必ずしもそうではありません。

状態に応じて対応を考えます。

早い段階なら、まず原因を取り除きます

炎症が歯ぐきを中心とした段階であれば、まずプラークや歯石などを取り除き、患者さん自身の清掃方法も見直します。

磨けていない場所があれば、なぜ磨けないのか。

道具の問題なのか。

被せ物の形なのか。

そこまで考える必要があります。

単に一度クリーニングをして終わりではなく、炎症を起こした原因をできるだけ取り除くことが重要です。

進行した場合には外科的な治療が必要になることもあります

骨にまで炎症が及んだインプラント周囲炎では、状態によって外科的な処置を検討することがあります。

インプラント表面を清掃しやすい状態にしたり、骨の欠損の形によっては再生を考えたりと、治療方法は一つではありません。

そして、どうしても良好な状態を取り戻すことが難しいと判断すれば、インプラントを撤去することも選択肢になります。

「残すこと」だけを目的にしない

できるだけインプラントを残したい。

それは患者さんも歯科医師も同じだと思います。

しかし、炎症のあるインプラントを無理に残すことで、さらに周囲の骨を失ってしまえば、将来の治療を難しくすることがあります。

天然歯でもそうですが、

残せるものを残すことと、何が何でも残すことは違います。

その時点でのお口全体と、その先の治療まで考えて判断することが大切です。

インプラント周囲炎の治療より、「起こさないこと」の方がずっと大切です

インプラント周囲炎は、進行すると治療が簡単ではありません。

だから現在は、

起こってからどう治すかより、どうすれば起こりにくくできるか

という考え方が非常に重視されています。

予防はインプラントを入れる前から始まっています

意外に思われるかもしれませんが、インプラント周囲炎の予防は定期検診から始まるわけではありません。

治療計画の段階から始まっています。

歯周病をできるだけ安定させる。

清掃しやすい位置にインプラントを入れる。

患者さん自身が磨きやすい被せ物を作る。

治療が完成したら基準となる状態を記録する。

そして定期的に比較していく。

こうした一連の流れすべてが予防です。

「調子がいいから行かなくていい」が一番もったいない

メインテナンスで、

「特に変わりありませんね」

と言われると、

「それなら来なくてもよかったかな」

と思うことがあるかもしれません。

でも私は、何も起きていないことを確認できるのが、一番よいメインテナンスだと思っています。

悪くなってから治療するより、良い状態をそのまま維持する方が患者さんの負担はずっと少なく済みます。

30年以上機能している当院の長期症例も、そうした「何もない時期」のメインテナンスを長く積み重ねてきた結果です。

まとめ

インプラントそのものは虫歯になりません。

しかし、その周囲にある歯ぐきや骨には炎症が起こり、進行すると「インプラント周囲炎」という状態になります。

しかも、初期には強い痛みなどの自覚症状が出ないことがあります。

だからこそ、

「痛くなったら診てもらう」

ではなく、

「痛くないうちから変化を見つける」

ことが重要です。

毎日のセルフケア。

定期的な歯周組織の検査。

必要に応じたレントゲン撮影。

噛み合わせの確認。

そして、問題が起こった場合には早い段階で原因を見つけて対応する。

インプラント周囲炎について一番知っていただきたいのは、決して「怖い病気があります」ということではありません。

長くインプラントを使うためには、治療後も診続ける理由があるということです。

インプラントを入れた日だけでなく、その先の10年、20年を見ていく。

それがインプラント治療には必要だと考えています。