コラム

インプラントは何年もつのでしょう?長期症例を診て分かった「長持ち」の条件(テーマ:インプラント 第4回/全6回)

「インプラントは何年もちますか?」という質問をよくいただきます。確かに治療を検討するうえで気になるところですが、私は「何年」という数字だけではインプラントの長期予後を十分に説明できないと考えています。ヒグチ歯科には30年以上機能を続けている症例がありますが、その背景には、患者さん自身のケア、歯周組織の管理、噛み合わせの確認、定期的なメインテナンスがあります。今回は、長年インプラントを診続けてきた経験から、「残っている」だけではない、本当の意味で長持ちするインプラントについて考えてみます。

「インプラントは何年もちますか?」という質問について

インプラント治療の相談をしていると、

「先生、これは一生ものですか?」

「何年くらい使えますか?」

という質問をよくいただきます。

決して安価な治療ではありませんし、外科処置も伴いますから、できるだけ長く使いたいと思われるのは当然です。

ところが、この質問は簡単なようで、実は答えるのがなかなか難しい質問です。

インプラントの研究では、「生存率」という数字が使われることがあります。

簡単に言えば、そのインプラントが失われずに口の中に残っている割合です。

しかし、インプラントが残っていれば、それだけで何の問題もないとは限りません。

例えば、

・周囲の骨が減っている
・歯ぐきに炎症がある
・被せ物が欠けている
・ネジが何度も緩む
・噛み合わせに問題がある

という状態でも、インプラント本体は口の中に残っていることがあります。

ですから私は、

「何年残っているか」

と同時に、

「その間、どのような状態で機能しているか」

を見ることが大切だと考えています。

30年以上使えている症例もあります

当院では1992年からインプラント治療を行っており、導入初期の患者さんの中には、30年以上経過した現在もインプラントが機能している方がいらっしゃいます。

これは歯科医として非常にうれしいことです。

しかし、その症例を見て、

「インプラントなら30年大丈夫です」

と単純にお伝えすることはできません。

長く機能している症例には、長く機能できた理由があります。

そして残念ながら、同じインプラントを使えば、すべての方が同じ経過になるわけでもありません。

長持ちするかどうかは「入れる前」から始まっています

インプラントの寿命というと、使用するインプラントメーカーや製品の違いが気になる方もいらっしゃいます。

もちろん、長期的な実績が確認されているインプラントシステムを選択することは重要です。

ただ、それだけで予後が決まるわけではありません。

歯を失った原因をそのままにしない

第3回でもお話ししましたが、まず重要なのは、

「なぜその歯を失ったのか」

ということです。

例えば歯周病によって歯を失ったのであれば、残っている天然歯の歯周病を安定させる必要があります。

強い噛み合わせや歯ぎしりによって歯が割れたのであれば、その力への対策を考えなければなりません。

歯を失った原因をそのまま残して、空いた場所だけをインプラントで補う。

それでは、長期的な安定を考えた治療とは言いにくいでしょう。

良い位置にインプラントを置くこと

インプラントの位置も、その後の管理に大きく関わります。

例えば、骨があるからという理由だけで清掃しにくい位置に入ってしまえば、患者さんは毎日そこを磨かなければなりません。

被せ物に無理な形が必要になれば、食べ物が詰まりやすくなったり、力のかかり方に無理が出たりする可能性もあります。

長持ちさせるためのメインテナンスは、実は手術が終わってから始めるものではありません。

メインテナンスしやすいインプラントを最初から作ること。

これも治療計画の大切な仕事です。

インプラントも「歯周病のような病気」になります

「インプラントは人工物だから、虫歯にも歯周病にもならないのでしょう?」

と聞かれることがあります。

確かにチタン製のインプラント体そのものが虫歯になることはありません。

しかし、インプラントの周囲には歯ぐきや顎の骨という生体組織があります。

インプラント周囲炎とは

プラークが付着し、インプラント周囲の組織に炎症が起こることがあります。

炎症が歯ぐきだけにとどまっている状態から、さらに進んでインプラントを支えている骨にまで影響が及ぶ状態を「インプラント周囲炎」と呼びます。

天然歯の歯周病と似ていますが、組織の構造は同じではありません。

そのため、天然歯以上に、

「問題が起こる前から診る」

という考え方が重要になります。

歯周病で歯を失った方は特に注意します

長期症例を診ていると、歯周病の既往は軽く考えることができません。

もともと歯周病によって天然歯を失った方の場合、

「歯を抜いてインプラントにしたから、歯周病の問題もなくなった」

ということにはなりません。

歯周病になりやすかった背景や清掃状態、生活習慣などを引き続き管理する必要があります。

インプラントだけ健康にして、その周りの天然歯の歯周病はそのまま、という状態では、お口全体として良好な環境とは言えません。

長く使うには「噛み合わせの変化」を見逃さないこと

ヒグチ歯科で長期症例を診続けてきて、特に重要だと感じているのが噛み合わせです。

第2回でも触れましたが、天然歯とインプラントでは顎の骨とのつながり方が異なります。

治療時に良かった噛み合わせも変化します

天然歯は歯根膜を介して顎の骨の中にあり、少しずつ位置を変えます。

歯そのものも長い年月の間にすり減ります。

一方、骨と結合したインプラントは、天然歯と同じようには移動しません。

そのため、治療したときには非常に良い噛み合わせだったとしても、10年、20年後にも同じとは限りません。

小さな変化を拾うのが定期管理です

インプラントに強い噛み跡が出ていないか。

被せ物の表面に特徴的なすり減りがないか。

ネジが緩んでいないか。

周囲の天然歯の位置が変化していないか。

こうした小さなサインを定期的に確認します。

大きな問題が起きたあとに修理するのではなく、

問題の芽を小さいうちに見つける。

長期のメインテナンスでは、この積み重ねがとても大切です。

長持ちしている患者さんには「通い続ける」という共通点があります

30年以上経過した症例を振り返ると、インプラントそのものの性能だけでは説明できないことがあります。

その一つが、患者さんとの長いお付き合いです。

痛くなくても来院していただく

天然歯でもそうですが、お口の病気には初期にはほとんど症状がないものがあります。

インプラント周囲の炎症も、患者さん自身が気づいたときには進行していることがあります。

だからこそ、

「何か起こったら歯医者へ行く」

ではなく、

「何も起こっていないことを確認するために歯医者へ行く」

というメインテナンスが重要になります。

毎日のセルフケアと医院での管理は両方必要です

もちろん、定期検診だけ受けていればよいわけではありません。

インプラントを支えている歯ぐきの健康を守る基本は、毎日の清掃です。

歯ブラシだけでなく、必要に応じて歯間ブラシなども使用していただきます。

一方、患者さん自身では確認できない骨の状態や噛み合わせ、被せ物の変化などは歯科医院で確認します。

セルフケアとプロフェッショナルケア。

どちらか一方ではなく、両方を続けることが重要です。

メインテナンスの内容も年齢とともに変わります

若い頃と30年後では、患者さんの身体も生活環境も同じではありません。

手が動かしにくくなった。

服用する薬が増えた。

介護が必要になった。

こうした変化によって、それまでできていたセルフケアが難しくなることがあります。

その場合には、清掃方法を変更したり、被せ物の形を見直したり、場合によっては第1回でご紹介したように義歯の支えとしてインプラントを活用したりします。

インプラントに患者さんを合わせるのではなく、患者さんの変化にインプラントの使い方を合わせる。

長期管理では、この発想も必要だと感じています。

「長持ちするインプラント」は患者さんと一緒につくるものです

インプラントを長持ちさせる秘訣を一つだけ教えてください、と言われると困ってしまいます。

何か一つ特別なことをすればよいわけではないからです。

歯科医師だけでは長期予後を守れません

私たちは、

適切に診断する。

適切な場所にインプラントを入れる。

適切な被せ物を作る。

その後、継続して状態を確認する。

ここまではできます。

しかし、そのインプラントを毎日使い、毎日清掃するのは患者さんです。

30年間の結果は、手術をした一日の技術だけで生まれるものではありません。

その後の何千日、何万回という食事と、毎日のセルフケア、そして定期的なメインテナンスの積み重ねによって作られます。

「何年もつか」より「何年使える状態を守れるか」

ですから私は、「インプラントは何年もちますか?」と聞かれたとき、単純な年数だけではお答えしにくいと感じます。

むしろ、

何年使えるかを、患者さんと歯科医院が一緒に守っていく治療

と考えていただく方が、インプラントの本質に近いと思います。

まとめ

インプラントは、適切に治療し管理することで、長期間にわたって機能する可能性を持った治療です。

実際、当院にも30年以上機能を続けている症例があります。

しかし、「30年以上もった」という結果だけを見るのではなく、その30年間に何をしてきたのかを見ることが大切です。

治療前に歯を失った原因を確認する。

清掃しやすく、無理な力のかからない位置にインプラントを配置する。

歯周組織を健康に保つ。

噛み合わせの変化を継続して確認する。

患者さん自身のセルフケアと、歯科医院でのメインテナンスを続ける。

こうした一つ一つの積み重ねが、長期的な結果につながります。

インプラントが何年もつのか。

その答えはインプラント体の中だけにあるのではありません。

治療を受ける患者さんのお口全体と、その後どのように付き合っていくかの中にある。

30年以上の症例を診続けてきて、私はそのように考えています。