コラム

インプラント治療は「手術」より前に決まります。長期予後を考えた診断と治療計画(テーマ:インプラント 第3回/全6回)

インプラント治療というと、「どのように手術をするのか」に目が向きがちです。しかし、長期的に安定した治療を目指すうえで私がそれ以上に大切だと考えているのが、手術前の診断と治療計画です。顎の骨の量だけでなく、歯周病、残っている歯、噛み合わせ、最終的にどのような歯を作るのかまで考えなければ、インプラントを適切な位置に入れることはできません。今回は、CTをはじめとした検査から「どこに入れるか」ではなく「なぜそこに入れるのか」を決めるまで、インプラント治療の舞台裏についてお話しします。

インプラント治療で難しいのは「入れること」だけではありません

インプラント治療について説明すると、患者さんの関心はどうしても手術に集まります。

「痛くありませんか」
「何分くらいかかりますか」
「骨を削るんですよね」

当然だと思います。手術を受ける側からすれば、一番不安になるところでしょう。

ただ、長年インプラント治療を行ってきた立場から申し上げると、私たちが治療前に最も頭を使うのは、実は手術室に入る前です。

インプラントは「入ればいい」わけではありません

顎の骨に十分な厚みがあり、そこにインプラントを埋め込む。

文章にすると、それほど複雑には聞こえないかもしれません。

ところが、インプラントは単に骨のあるところへ入れればよいものではありません。

最終的に、

・どの位置に歯が並ぶのか
・どの方向から力が加わるのか
・隣の天然歯との距離はどうか
・患者さん自身が清掃できる形になるか

まで考えて位置を決めます。

つまり、「インプラントを入れられる場所」と「インプラントを入れるべき場所」は、必ずしも同じではありません。

最初に考えるのは、完成する歯の姿です

理想的には、まず最終的な被せ物の位置を考え、そこから逆算してインプラントの位置や方向を決めます。

これを補綴主導、つまり「最終的な歯から逆算する治療計画」と考えていただくと分かりやすいでしょう。

骨だけを見てインプラントを入れてしまうと、あとから被せ物を作る際に無理が生じることがあります。

インプラント治療では、外科と被せ物の治療を別々に考えることはできないのです。

CTで見るのは「骨があるか、ないか」だけではありません

現在のインプラント治療では、CTによる三次元的な画像診断が重要な役割を果たします。

従来のレントゲン写真も非常に有用ですが、平面的な画像だけでは分かりにくい情報があります。

骨には「高さ」と「幅」があります

例えば、レントゲン写真では十分な高さがあるように見えても、実際には骨の幅が非常に薄い場合があります。

CTでは、

・骨の高さ
・骨の幅
・骨の形
・周囲の解剖学的な構造

などを三次元的に確認できます。

上顎であれば上顎洞、下顎であれば神経や血管が通る下顎管など、治療時に注意すべき構造との位置関係も確認します。

「入るサイズ」ではなく「安全に機能する位置」を考えます

CTを見る目的は、

「この長さのインプラントなら入りそうだ」

と決めるだけではありません。

大切なのは、

最終的な歯を適切な位置に作るために、インプラントを安全な位置・方向に置けるか

を確認することです。

もし理想的な場所に十分な骨がなければ、骨造成などを検討することもあります。

反対に、骨を増やす処置まで行ってインプラントを選択することが、本当にその患者さんにとって最善なのかを考え直す場合もあります。

検査をする目的は、インプラントを入れる理由を探すことではありません。

インプラントをしてよいのかを判断するためでもあるのです。

インプラントの診断では「残っている歯」をよく見ます

インプラント相談に来られた患者さんは、当然、歯がない場所を気にされています。

しかし私たちは、歯がない場所だけを診ているわけではありません。

むしろ、周囲に残っている天然歯を非常によく見ます。

なぜその歯を失ったのか

これは治療計画を考えるうえで、とても重要な質問です。

歯を失った原因が、

・虫歯だったのか
・歯周病だったのか
・歯根破折だったのか
・強い噛み合わせだったのか

によって、考え方は変わります。

例えば、重度の歯周病によって歯を失った方にインプラントを入れる場合、インプラントだけを治療して終わりというわけにはいきません。

残っている歯の歯周病を安定させ、お口の中全体の炎症をコントロールしたうえで治療を考える必要があります。

「なくなった歯」には原因があります

これは少し当たり前のようで、意外と見落としやすいところです。

歯がなくなった場所だけをインプラントで埋めても、その歯を失うことになった原因が残っていれば、同じ環境の中に新しい人工物を置くことになります。

例えば、非常に強い歯ぎしりが原因で天然歯が破折したのであれば、インプラントにも強い力が加わる可能性があります。

歯周病が十分に管理されていなければ、インプラント周囲にも炎症が起こるリスクを考えなければなりません。

インプラント治療の診断とは、「空いた場所をどう埋めるか」ではなく、

なぜ空いたのかまで考える作業

だと思っています。

「今ある骨」だけでなく「これからどう噛むか」を考えます

インプラント治療は、レントゲンやCTの画像だけで決まるものではありません。

画像には骨の形は写りますが、その患者さんが普段どのように噛んでいるかまでは写らないからです。

一本のインプラントでも、お口全体の咬合を考えます

例えば奥歯を一本失った患者さんでも、

「一本だから一本だけ診ればいい」

とは考えません。

左右のどちら側でよく噛んでいるのか。

反対側の奥歯は十分に機能しているのか。

前歯や犬歯は顎の動きを適切に誘導しているのか。

歯ぎしりや食いしばりはないか。

こうしたことを見ながら、インプラントにどの程度の負担がかかるのかを考えます。

強く噛めるからこそ、力の設計が重要になります

インプラントは顎の骨としっかり結合するため、よく噛むことができます。

これは大きな利点ですが、第2回でお話ししたように、天然歯のような歯根膜はありません。

よく噛めるからこそ、どこにどの程度の力がかかるのかを考えることが大切です。

特に歯ぎしりや食いしばりが強い方では、被せ物の材料や形、噛み合わせ、治療後の管理方法まで含めて計画します。

「インプラントをしない」という診断もあります

検査をして、CTを撮影し、詳しく診断した結果、

「今回はインプラントを選ばない方がよいでしょう」

とお話しすることもあります。

技術的にできることと、やるべきことは違います

現在は骨造成などの技術も発達し、以前ならインプラントが難しかったケースでも治療できる可能性が広がっています。

しかし、

できるから、やる

という考え方だけでは十分ではありません。

治療の負担、期間、清掃のしやすさ、年齢、全身状態、今後のお口全体の変化などを考えたときに、ブリッジや義歯の方が適している場合もあります。

診断とは「治療方法を決めること」ではありません

私は、診断とはインプラントを入れるための手続きではないと考えています。

インプラント、ブリッジ、義歯、場合によっては何も入れずに経過を見る。

それぞれの選択肢について長所と短所を整理し、患者さんにとってどの方法が無理なく続けられるのかを考えることです。

インプラント治療で最も重要なのは、上手にインプラントを埋め込む技術だけではありません。

そのインプラントを入れるべきかどうかを判断すること。

私はそこから治療が始まっていると思っています。

まとめ

インプラント治療というと、どうしても手術の技術が注目されます。

もちろん、安全に正確な手術を行うための技術は欠かせません。

しかし、長期的な結果を考えるなら、その前にある診断と治療計画が非常に重要です。

CTで骨や周囲の解剖学的構造を確認する。

失った歯だけでなく、残っている天然歯や歯周病の状態を見る。

なぜその歯を失ったのかを考える。

噛み合わせを確認し、完成する歯から逆算してインプラントの位置を決める。

そして場合によっては、「インプラントをしない」という選択肢も含めて検討する。

インプラント治療は、骨に人工歯根を入れるだけの治療ではありません。

これから10年、20年と続いていくお口全体をどのように作っていくかを考える治療です。

私は、手術そのものより前に、そのインプラント治療のかなりの部分が決まっていると考えています。